[カルチャー]トイ・迷える中年・ストーリー

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ジョシュ・クーリー監督「『トイ・ストーリー』の第2作で、ウッディは博物館へ行くよりアンディのそばで生きると決めた。第3作は、成長したアンディと別れボニーのものになった。第4作でウッディは新たな決断を下す。苦くて、ハッピーとは言い切れないラストだ」

 私「ウッディにとって堕落なんじゃありませんか?」

 12日から全国公開されているディズニー/ピクサーのCGアニメ「トイ・ストーリー4」を見終わった時、正直ハラが立ちました。しかしクーリー監督へのインタビューの質問を考えていた時、ストンと腑(ふ)に落ちたのです。ああ、これは「迷える中年男」のドラマなんだと。それなら、愛すべき作品です。そして「トイ・ストーリー5(完)」が見たい――そんな妄想が膨らみます。あ、ネタバレありです。

 第2作のラストは全てのピクサー作品の中で最高のものです。映像はずいぶん進化しましたが、その評価は今のところ覆っていません。おもちゃは飽きられるか壊れるか、いつかは「お払い箱」です。壊れかけたウッディはその恐れを抱き、自分がプレミアのつく「お宝」だと分かって一度は博物館行きを決めますが、「おもちゃは子供に愛されてこそ」。使命を全うする「おもちゃ道」を選びます。ラスト、庭のアンディを見やりつつ相棒のバズと会話します(DVD版の字幕と原語)。

  •  バズ「心配か?」(You still worried?)
  •  ウッディ「アンディの成長が? いいや、今を楽しむさ」(About Andy? Nah.It’ll be fun while it lasts.)
  •  バズ「その意気だ」(I’m proud of you,cowboy.)

 誇りと決意。諦念(ていねん)と潔さ。おもちゃが生きているという設定を生かし、深く普遍的なドラマを見せてくれました。

 ここで「トイ・ストーリー」という物語は見事に終わっているので、「3」を作ると聞いた時は「余計なことを」と思いました。アンディといつか別れる日が来る、その覚悟まで「2」で既に描いてしまったので「3」はそれをなぞって「来る」を「来た」に変えただけ。それをスペクタクルで膨らませただけ。そう映りました。

 おまけに、おもちゃは古びるもの、壊れるものだったはずなのに、新たな持ち主になった女の子ボニーに抱きしめられるおもちゃたちに、そんな心配はまるでなさそう。じゃあ持ち主を取り換え続ければ彼らはいつまでも幸せに暮らせるってこと? 「2」を感動的なドラマにした前提が「なかったこと」にされたようで、ガッカリしました。もちろん「3」にもいいシーンはあるんですけど。

 そんなわけで「4」は、「はいはい、ウッディやバズは大切なIP(知的財産)だもんね。この先も長く商売していくんだから新作は必要よねー」と冷たい気持ちで見に行きました。

 ボニーがプラスチックのフォークで手作りした人形「フォーキー」を、ウッディたちが新たな仲間として迎え入れるのが物語の発端。フォーキーは自分を「ゴミ」だと思っているので何度もゴミ箱へダイブ! しまいには外へ逃げ出す始末。ボニーのお気に入りのフォーキーを連れ戻そうとウッディは苦難と冒険の旅へ。移動遊園地が来てにぎわっている公園で、かつてアンディの家で仲むつまじくしていた羊飼い人形ボーと運命の再会を果たし、その生き方に驚かされます。彼女は特定の持ち主を持たず、子供の集まる場所を渡り歩いており、自由で、自立し、たくましく、行動的な女性になっていました。

 自分よりカウガールのジェシーがお気に入りらしいボニーのもとを自ら離れ、バズら仲間とも別れて、ボーについていく、というのが問題のラストです。崇高な使命はどうしたんだよ、女に転びやがったのかよ、「流し」のおもちゃってワケわかんないよ、持ち主との愛と絆はどうなるんだよ、といろいろな怒りがわき上がります。

 しかもウッディはこのシーンの直前、大好きだった女の子に選んでもらえずうちひしがれていたアンティーク人形ギャビー・ギャビーをアンティークショップから連れだし、移動遊園地の片隅で泣いていた迷子の女の子のものになるよう促したんですよ。ひとにおもちゃの使命を説いたその舌の根も乾かぬうちに、自分はその使命を放り投げるのかい?!

 インタビューでうかがったクーリー監督のお話です。

 「ウッディがボーと再会するというアンドリュー・スタントン(シリーズ全作の脚本を担当)のアイデアが出発点だったけど、僕がプロジェクトに加わった時点ではまだどんなラストにするか決まっていなかった。前3作と違う、しかし感情を強く揺さぶるエンディングが必要で、それにはどんなものがあり得るかアイデアを出し合った。その中で、ボーの生き方に影響を受けたウッディがみんなのもとを去るという案が出たんだ」

 「もちろん賛否が分かれた。ストーリーを話し合う場で、そのアイデアが俎上(そじょう)に上るだけで声を震わせたり涙を浮かべたりする人がいたくらいだ。でも、逆にこう考えた。それほどの反応を引き起こすなら、探る価値があるんじゃないか。ウッディの進んできた道の、その先の進化を描けるんじゃないか。そこで、異論や疑問点をひとつずつじっくり検討したんだ。この決断が正しいと感じられるまでね」

 物語を思い返すと、よく練り上げられた「配置」に気づきました。

 「持ち主」にこだわらず自由に生きるボー。持ち主と絆を結ぶこれまでの生き方に固執するウッディ。「おもちゃ」という新しい生き方をかたくなに拒むフォーキー。ウッディのように生きたかったのにその願いがずっと満たされないギャビー・ギャビー。トラウマのため何事にも踏み出せないデューク・カブーンというバイク・スタントマンの人形も登場します。様々な「生き方」がウッディを取り囲むように配置されています。

 「まさにそうなんだ! 僕たちの意図を分かってくれてうれしい。様々な違う生き方をウッディに見せるのは、すべて彼の変化を導くためだ。特にボーは、ウッディにとって鏡のような存在だね」

 今回の取材で私を導いてくれたのは「ミドルエイジ・クライシス」という言葉。英語では「midlife crisis」と言うらしいですね。人生も半ばを過ぎ、オレはこのままでいいのか? 先はあるのか? なんで生きているのか? 人生の楽しみって何だ? 違う生き方があるんじゃないか? ――あぁウッディも「中年の危機」だったのか! 監督に、こうぶつけてみました。

 最初に映画を見た時、ウッディが堕落したとガッカリしました。でもウッディは「中年の危機」にあり、多様な生き方を目の当たりにして、フッと道を外れてみようという気持ちになる。あえて迷子になるのも人生じゃないか。そう思うとすごく共感出来ました。

 「あなたの言っていることは分かるし、その通りだと思う。『中年の危機』とおっしゃったけど、『空の巣症候群』のようでもある。ウッディは親のような気持ちで持ち主のことを見ているんだ。世話をして、守ってやらなきゃと思っている。第3作でアンディの成長を見届けたことで、疑問が湧いたんだろうね。子どもが育ったらそのあと自分はどうなるのか。クローゼットの中で残りの『人生』を過ごすのか、新しい目的を見つけるのか?」

 いい話ですけど、難しくて子どもには伝わらないですよね?

 「僕たちはウッディやバズを『大人』の心を持ったキャラクターとして扱っている。それが、『トイ・ストーリー』というシリーズが長く続いた理由だと思う。観客の子どもたちは、おもちゃが動き出してハラハラドキドキの冒険をするのを純粋に楽しむ。大人たちはそれに加えて、キャラクターたちが織りなす一段深いレベルのドラマを味わう。そういう風にうまく出来ているんだ」

 監督はこうも言いました。

 「このシリーズ全体を通じて、僕が引きつけられるポイントはウッディとバズの友情ドラマなんだ。今回のウッディの決断も、バズの存在、バズの支えがあってこそ成立する。そこに僕は、とても心を動かされたんだ」

 確かに、ウッディの「本心」を見抜いてボーの方へ送り出すバズのセリフには、ハッと胸をつかれました。去っていくウッディの背中を見送る仲間の1人から「ウッディは迷子のおもちゃになっちゃったの?」と問われ、バズは万感の思いを込めて静かに答えます。

  •  「迷子じゃない。今はもう、無限のかなたへ(to infinity and beyond)……」

 確かに限りなく広大な世界が待っているでしょう。しかし若者ではなく「迷える中年」には厳しい風も吹く荒野なのでは? バズのおなじみの決めゼリフに反語的な響きを勝手に感じ取っていたのですが、原稿を書くために第2作を見直して気づきました。バズの「その意気だ」(I’m proud of you,cowboy.)の後、締めくくりのセリフとしてウッディが言うのです。

 「別れが来ても俺にはバズがいる。無限のかなたまで」

 少しおどけた口調にはやはり反語的な響きがあります。うなずくバズ。同じ道を歩き、限りある時間を精いっぱい生きようという2人の覚悟が透けて見えます。時は流れて今度は、その道を外れて旅立っていく友の背中に「to infinity and beyond」を贈る。「心は一緒だ」というメッセージとも、「幸あらんことを」という祈りとも取れます。なかなかの「大人のドラマ」ですね。

 ここまでやるなら更にその先に踏み込んでほしい。「4」で、フォークとモールから「命」を持ったおもちゃが生まれた瞬間を描いたのですから、この世界にはその逆も起こり得るはず。「5」に期待するテーマはずばり、ウッディの老いとその最期。おもちゃの終活とはいかなるものになりましょうや? かつての仲間たちや、懐かしいアンディは、光を失いつつあるウッディの目にどのように映り、どのような思いを抱かせるのか? いやー、早く見たいなー

 

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